追放状態の中で
「先週からちょっと咳がでているんです。いま話題の新型コロナウイルスじゃないでしょうね」診察中一度も咳をすることなく、発熱もない奥様のことを、心配とも世間話ともつかない口調で尋ねられる。奥様はそれを聞いて笑っておられる。 ...
「先週からちょっと咳がでているんです。いま話題の新型コロナウイルスじゃないでしょうね」診察中一度も咳をすることなく、発熱もない奥様のことを、心配とも世間話ともつかない口調で尋ねられる。奥様はそれを聞いて笑っておられる。 ...
みなさんは藤川幸之助さんという詩人をご存じでしょうか。お母さまがアルツハイマー型認知症の診断をうけて24年間介護されました。2013年に出版された詩集『徘徊と笑うことなかれ』のあとがきには、お母さまにとっては人生の三分の...
私はもう治らないんですね。どうせ死ぬなら殺してください。 研修医だったあるときに投げかけられた、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんの声です。非常に重い言葉を伝えられました。 ALSは難病中の難病。治療法がなく、全身の...
筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断されている一人の女性が入院された。介護する家族の休息のため一時的に入院することを、レスパイト(休息)入院と呼ぶ。今回は一週間弱の入院である。現在動く筋肉はほとんどなく、声はもちろん出...
「調子はいかがですか」そうたずねると、「身体は調子がいいです」と言われる。医師としては身体の調子がよければいいところであるが、「身体は」というところが気にかかる。「身体は、ということは…」と言いかけて、どうたずねようか...
「家に帰りたい」多系統萎縮症《たけいとういしゅくしょう》で入院中の方はそう切に訴えられる。家の二階の書斎からの眺めは最高だそうだ。在宅療養にむけて準備を進めているが、かえって症状は進行している。 慣れ親しんだ家で過ご...