同じ方向を向いて(1)

[この記事は『崇信』二〇二六年五月号(第六六五号)「病と生きる(119)」に掲載されたものです]

受念寺にご縁のある方の、一人のお孫さんの歩みである。ご両親の月参りには、いつも一緒に『正信偈』を声に出しておつとめされ、寺に併設する私設図書館「念々堂」ができてからは、ときどき大学受験の勉強をしに来られたり、学習会にも参加されたりしていた。

お母様は小学五年生のときに交通事故で亡くなった。中学生で不登校になったとき、お父様はやさしく支えてくれた。しかしそのお父様が中学三年生の時に自殺。ご両親亡き後は、祖父母のもとで、お兄様とともに暮らすこととなった。その苦しみ、悲しみは計り知れないが、高校入学後は友人にも恵まれ、授業も休まず出席、行事にも積極的に関わった。自身の経験から、臨床心理士や精神保健福祉士のような人の心に関わる仕事がしたいと、心理学が学べる大学を目指し、見事合格された。お参りの際、悲しみを縁として学ぶ姿勢に頭が下がるとお伝えしたら、大学院まで行きたいとおっしゃっていた。

そのように、順風満帆と思われた矢先、お祖母様と「念々堂」に来られ、深刻な面持ちであった。お祖母様によれば、いつもと様子が違うので近医を受診したら精神科を勧められ、どうしていいかわからず、その足で来たという。詳しく伺うと、寒い部屋で薄着のままぼーっと立っていたり、荒唐無稽な話をしたり、様子がおかしいのだという。ご本人にお話を伺うと、お父様の死について何かを話そうとされるが、まとまらず、心がここにない感じであった。

私は精神疾患の専門ではないが、ご様子からできるだけ早く精神科を受診したほうがいいとお伝えした。また、受念寺役僧の二宮遼氏は臨床心理士でもあり三日後に出勤するので、その時お話を聞いてもらったらどうかと提案し、またお会いする約束をした。

三日後の土曜日午後二時頃、再びお祖母様とともに来られた。二宮氏が話を聞き始めてしばらくして、私も到着した。しかし三日前よりさらに様子が変わっており、会話は支離滅裂で、焦燥感が増し、立ち上がってうろうろして、ついには外へ飛び出そうとされるのをお兄様が止めようとしているところであった。

何らかの精神疾患の急性期症状と思われた。急ぎ対応が必要と考え、二宮氏の提案で精神科救急の相談窓口に電話、私から医師であることを名のった上で事情を説明したが、緊急性の判断は精神科医の確認が必要で、折り返し連絡するとの返答であった。再度かかってきた電話では、受診は閉鎖病棟に入院する前提になるので判断が難しい、まずは休日に診療している精神科を当たってはどうかと、クリニックの番号を教えられた。

その番号に電話するが、自動音声でLINEに誘導された。LINEの登録をして、その予約システムを使えということらしい。もしお祖母様一人だったら対応は難しいだろうと感じたが、結局予約もすべて埋まっていた。他の病院にも電話したが、当番ではないので、精神科救急の相談窓口を通すように言われ、結局逆戻りであった。

そうこうする間に、とうとう外に飛び出され、お兄様も後をついていった。危険な状態である可能性を察知した二宮氏もすぐ後を追った。その後連絡があり、自宅には帰らず駅に向かった、両親と住んでいたX町の実家に向かおうとしているのを駅で引き留めていたが、結局電車に乗り、天王寺に向かったという。受念寺併設の軽費老人ホーム「受念館」職員の江夏哲也氏は、それを聞いて機転を利かせ、いつでも搬送できるよう車で天王寺に向かった。

私は再度窓口に電話し、現状を説明。救急受診し入院する前提で、やっと病院を探してもらえることになった。お祖母様もお疲れのご様子であったので一旦帰っていただいた。これで無事受診できそうだと少し安心した。時刻は午後四時半を回っていた。

その後私もご自宅に向かい一緒に待機した。折り返し掛けるように言われてメモしたという電話番号が残されていたが、受信専用電話でつながらず、待てども一向に電話がない。なぜか受念館に電話があったと聞き、急いで戻ったが切れていた。再度かかってきた電話で、ようやく担当者と話ができた。「急を要する、車で近くに待機しているから、どこでも連れて行くので早く決めてほしい」と強い口調で言って、ようやく動いてくれた。もう時刻は午後五時半になろうとしていた。

そこからさらに三十分以上経過し、ようやくY病院に決まった。しかし現場では刻々と状況は動く。二宮氏とお兄様は、何とか落ち着いていただこうと、喫茶店でお話を傾聴しようとしたが、衝動を抑えきれず、とうとうX行きの電車に乗車。すでにX駅から自宅へと向かっていると連絡があった。寒空の下、二宮氏は飛び出したままの軽装で、スリッパのまま足取りをともにしたのであった。(つづく)

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