人間の故郷
「あんなふうになる前に死にたい」重い認知症の患者さんについて、このように言うのを病棟で耳にすることがある。それを聞く度に何とも言えない悲しい気持ちになる。認知症の患者さんには、食事の介助をはじめ、入浴介助、下の世話まで...
「あんなふうになる前に死にたい」重い認知症の患者さんについて、このように言うのを病棟で耳にすることがある。それを聞く度に何とも言えない悲しい気持ちになる。認知症の患者さんには、食事の介助をはじめ、入浴介助、下の世話まで...
病院では様々な場面で治療の選択を迫られることがある。他の疾患もそうだが、神経疾患ではときに厳しい選択となる。これまでにもとりあげてきたALS(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう筋萎縮性側索硬化症)という疾患は、進行す...
先日、私の祖母がお浄土に還った。もともと住まいは奈良だったが、調子が悪くなってからは、以前にも紹介した、寺に併設する老人ホームで過ごしていた。昨年末から調子が悪く、一時血圧も下がり、いよいよ、と思われたが持ち直した。そ...
これまで治らない病気のことを取り上げてきたが、もちろん病気が改善するということもあり、そこには喜びがある。病気になれば治したいと思うのは当然である。医療者の中にはその喜びがあるからやっている、という方も多いようである。...
大学で医学研究をしていると、遺伝子を扱う技術が身につく。そのため遺伝子診断を担当することがあった。遺伝子というのはDNAのらせん構造でできており、四種の「核酸」と呼ばれる物質から成る。この核酸の配列によってタンパク質の種...
前に取り上げたALS(筋萎縮性側索硬化症《きんいしゅくせいそくさくこうかしょう》)について少し詳しくお話ししたい。ALSは全身の運動神経が障害される難病である。根治療法は未だなく、人工呼吸器を使用しなければ診断から数年で...
今日もいつものように痰を吸う音が聞こえる。彼の頸部には穴が空いており、管が入っている。私は彼のもとを週一回訪れるが、いつ行ってもお母さんがおられる。彼が脳の手術後寝たきりになってから、お父さんと交代で毎日病院に来られ、そ...
私のいる受念寺《じゅねんじ》は、軽費老人ホーム「受念館《じゅねんかん》」と一体となった形をとっている。先代の住職が五十年程前に開設した。子供の頃から部屋を出るとすぐそこに入居者の方々がおられ、よく遊んでもらった。 時には...
「両上下肢の深部腱反射《しんぶけんはんしゃ》は亢進、舌に線維束攣縮《せんいそくれんしゅく》が見られ…」「針筋電図は?」「明後日の予定です。」 毎週行われる神経内科カンファレンスの風景だ。しかしこの日のようにALS(筋萎縮...
浅野川の辺を少し急ぎ足に歩きながら、私は色々と思い出していた。崇信学舎での児玉曉洋先生のお話までまだ時間があるので、平野喜之さんがひがし茶屋街へ案内してくださったのだった。私の曾々祖父は明治時代、もう少し川を下った割出村...