自我と自己
いつものように一人の男性が、息子さんに連れ添われ認知症外来に受診された。そのお顔は笑顔とも憂え顔ともつかない、感情がなくなってしまったかのようにみえる。目は合うが、話しかけても返事をされることはなく、私はまだ一度も彼の...
いつものように一人の男性が、息子さんに連れ添われ認知症外来に受診された。そのお顔は笑顔とも憂え顔ともつかない、感情がなくなってしまったかのようにみえる。目は合うが、話しかけても返事をされることはなく、私はまだ一度も彼の...
いつも認知症外来に来られる患者さんのことである。最近はいつもニコニコされていることが多かったのだが、その日は診察室に入ったときからむっつりと黙り、険しい表情をされていた。話せないわけではないが、普段から認知症のためにス...
コミュニケーションがとれなくなる疾患は、ALSの他にも様々ある。脊髄小脳変性症《せきずいしょうのうへんせいしょう》(SCD)もその一つだ。その名の通り脊髄と小脳が変性する難病である。ALSと同じく、透明文字盤などを使用...
「人の役に立ってから死にたい。自分を新薬の実験台にしてほしい。」筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんが亡くなる三週間ほど前におっしゃったこの言葉がずっとひっかかっていた。人は誰かの役に立つために生まれてきたのだろうか...
「もしもあなたが、意識がはっきりしているのに、目を開けることも話すこともできない、身体を動かすことも全くできない。そんな状態がずっとつづくとしたらどうしますか」NHKスペシャル「命をめぐる対話」(二〇一〇年三月二十一日...
「自分が幸せでなければ人を幸せにできない」ある医師がこう言ったことに対して、ずっと強い違和感を抱いていた。幸せという言葉の意味にもよるが、自分の欲求が満たされて余裕がなければ相手にやさしくできない、とも言っていた。そうい...
「患者さんが泣いています。一度診てください。」担当の患者さんではなかったし、心の問題は精神科の領域となる。私の専門分野は神経内科だが、よく精神科と混同される。心の病は精神科や心療内科が担当で、神経内科は脳卒中やパーキン...
先日、新たにALS(筋萎縮性側索硬化症《きんいしゅくせいそくさくこうかしょう》)の患者さんが入院された。頸部には気管切開といって、空気を通す管を入れるための穴が開けられており、人工呼吸器がつながれている。進行が早く、診...
「両上下肢の深部腱反射《しんぶけんはんしゃ》は亢進、舌に線維束攣縮《せんいそくれんしゅく》が見られ…」「針筋電図は?」「明後日の予定です。」 毎週行われる神経内科カンファレンスの風景だ。しかしこの日のようにALS(筋萎縮...